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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)137号 決定 1964年3月23日

三和信用金庫

実業信用組合(いずれも破産申立人)

理由

(一)  本件記録によると次の事実を認めることができる。

(1)抗告人(当三一年)は、その父川見徳太郎の経営する川見鋳造鉄工株式会社に、大学卒業後取締役として入社して、営業面を担当していたが、同会社の経理面は代表取締役の川見徳太郎が一切を切り廻し、抗告人は関知させられていなかつた。

(2)同会社は、昭和三三年八月一一日相手方実業信用組合と、金二〇〇万円の手形取引き契約を締結したが、そのとき、同相手方は、川見徳太郎に、抗告人が右債務の連帯保証をするよう要求した。そこで、川見徳太郎は、抗告人に何らの相談もしないで、勝手に、同会社の事務員沢田真三に命じて、手形取引約定書と題する書面の連帯保証人欄に抗告人の氏名を墨書させ、その名下に同会社が集金用として使用していた「川見」と刻つた印判を押捺し、この書面(原裁判所昭和三五年(フ)第三〇三号事件の甲第一号証)を相手方実業信用組合に差し入れた。これには、昭和三三年八月八日付大阪市城東区長作成の抗告人の印鑑証明(同事件の甲第四号証の九)が添付されているが、抗告人は右印鑑の届出でをしたこともなければ、右印鑑証明の交付申請をしたこともなく、すべて、川見徳太郎によつて勝手にされたものである。相手方実業信用組合は、右書面を受け取つたが、抗告人が真実連帯保証をしたかどうかについて、その事実ならびに抗告人の意思を確認するなんらの手段方法をとらなかつた。

(3)同会社は、昭和三二年頃から相手方三和信用金庫と取引きがあつたが、同会社が昭和三四年五月二〇日頃不渡り処分を受けたので、同相手方は、川見徳太郎に対し、同会社の残債務について、個人保証をするよう要求した。そこで、川見徳太郎は、同年八月八日頃、これも抗告人に何ら相談せず、勝手に、借用金確証と題する書面の保証人欄に、有りあわせの、抗告人の氏名を刻んだゴム印を押捺し、その名下には、同会社の金庫に保管されていた抗告人の実印を冒捺し、この書面(原裁判所昭和三五年(フ)第二二八号事件の甲第一号証)を相手方三和信用金庫に差し入れた。同書面にも、抗告人の印鑑証明(昭和三四年八月七日付大阪市旭区長作成したもので同事件の甲第一号証の二)が添付されていたが、この印鑑証明は川見徳太郎の申請によるもので、抗告人は、何ら関知していない。相手方三和信用金庫は、右書面を川見徳太郎から受け取りながら、抗告人が、同書面どおり真実保証をしたかどうかについての事実と抗告人の意思の確認をしなかつた。

(4)相手方らの本件各破産申立て事件の抗告人に対する破産債権は、右の各保証債務である。

(二)  以上の事実によると、相手方らの主張する各保証債務は、抗告人の関知しないもので、川見徳太郎が抗告人に承諾をえないで、抗告人の氏名を冒用してした無権代理によるものであり、抗告人が右無権代理行為を追認したとの主張もない。

そうすると、抗告人は、相手方らに対し、相手方らが主張するような債務を負担しておらないのであるから、抗告人は何ら破産宣告を受ける筋合でないことは多言を必要としない。

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